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大阪地方裁判所 平成4年(ヨ)1690号 決定 1992年9月08日

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別紙当事者目録記載のとおり

主文

一  債権者が債務者に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二  債務者は、債権者に対し、平成四年九月から平成五年八月までの間、毎月二八日限り金一四万円(ただし、平成四年一二月は金一三万三〇〇〇円、平成五年五月は金一二万六〇〇〇円)を仮に支払え。

三  債権者のその余の申立てを却下する。

四  申立費用はこれを三分し、その二を債務者の、その余を債権者の負担とする。

理由

第一当事者の求めた裁判

一  債権者

1  債権者が債務者に対して提起する雇用契約存在確認並びに賃金支払請求の本案訴訟の判決確定に至るまで、債権者が債務者の従業員たる地位にあることを仮に定める。

2  債務者は、債権者に対し、平成四年五月以降毎月二八日限り金一四万円を仮に支払え。

二  債務者

債権者の本件申立てを却下する。

第二当裁判所の判断

一  本件各疎明資料及び当事者審尋の結果によれば、債権者は、平成三年一一月一八日、債務者との間で雇用契約を締結し、同日から駐車場従業員として勤務していたこと、債権者は、債務者から賃金として毎月二〇日締切同月二八日払により一出勤日あたり金七〇〇〇円(一日実労働八時間)を支払われていたこと、債務者は債権者に対し、平成四年二月一三日、解雇予告手当金一四万円を提供して、同日付で債権者を解雇する旨通知したことが認められる。

二  債権者は、右解雇が解雇権の濫用にあたり無効である旨主張し、他方、債務者は、右解雇の理由として、債権者が、他の従業員との協調性に欠け摩擦・衝突が絶えず、そのため他の古参従業員が退職を申し出る事態まで発生したこと、雇用保険加入手続に際し、債務者の依頼した大阪労務事務所の担当者である井上隆晴に対し、非礼な態度をとったこと、債務者の営業方針に対して批判を繰り返すのみで債務者の指揮命令に従わなかったことを主張している。

そこで検討するに、なるほど本件各疎明資料及び当事者審尋の結果によると、債権者には、やや独善的で、些細な物事に拘泥して他を糾弾するような性向が窺われ、これがため債務者代表者や他の債務者従業員らに疎まれて、これらの者との間で対立を生じ、債務者従業員の一人が、一時、債務者代表者に対し退職の意向を洩らしたこと、債権者が平成四年一月二七日、前記井上と面接した際、同人に対し侮辱的な態度をとって同人の感情を害したことがあったことを認めることができる。しかしながら、債権者と他の従業員との対立は、他の従業員が債権者の人格態度に対する漠然とした嫌悪感情を抱いているにとどまり、それ以上に、債権者が他の従業員に対し、具体的な加害行為に及んだり、他の従業員との間に重大な紛争を生じ、あるいは債権者と他の従業員との感情的な対立により債務者の駐車場業務の遂行に現実に著しい支障をきたした事実は認められないし、かつ、債務者の業務は、駐車場に出入りする車両の監視・誘導と料金徴収という比較的単純な作業を主体とするものであって、従業員間の緊密な協調がなければ業務遂行が不可能となる類のものとも認められない。また、債権者が、債務者の具体的業務命令に違反した事実を認めるに足る疎明もない。

他方、雇用者たる債務者としては、債権者と従業員との間に右のような感情的対立が存在し、これがため債務者の業務遂行に支障をきたすおそれがあることを認知した場合には、債権者及び他の従業員に対し、適宜、指導・注意等を加えることにより、これを未然に防止し、解雇という重大な事態に陥ることを可能な限り回避すべき立場にあると解すべきところ、債務者は、債権者の前記井上に対する態度について、その翌日に債権者に対し注意を与えた事実は認められるものの、それ以上に、債権者の債務者代表者やその他従業員に対する態度を改善するよう注意等を与え、あるいは債権者とその他従業員との人間関係の調整・修復を図って努力した形跡は窺われない。

右の事情を勘案すると、未だ、債権者の性格的欠点が債務者の業務遂行に著しい支障をきたし、また、債務者の努力によっても債権者の欠点を矯正することができず、従業員間の人間関係が修復不可能であるため、債権者を解雇することが真に止むを得ないものとまで言うには尚早というべきであり、現段階では、本件解雇は、解雇権の濫用にあたるものとして許されないと言わざるを得ない。

三  以上によれば、本件申立てにかかる被保全権利の存在を一応認めることができるところ(ただし、平成四年一一月二一日から同年一二月二〇日までの出勤を要する日数は一九日、平成五年四月二一日から同年五月二〇日までの出勤を要する日数は一八日となるから、主文掲記の金額を超える部分については被保全権利の疎明がない。)、本件各疎明資料及び当事者審尋の結果を総合すると、主文掲記の限度において、これが保全の必要性についてもこれを認めることができる。債権者の本件申立てのうち、右の限度を超える部分については、保全の必要性の疎明がない。

よって、債権者の本件申立ては、主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し、右を超える部分については、理由がないからこれを却下し、申立費用の負担につき、民事保全法七条、民事訴訟法八九条、九二条本文を適用し、債権者に担保を立てさせないで主文のとおり決定する。

(裁判官 栗原壯太)

<別紙> 当事者目録

債権者 馬場治

債務者 大和倉庫株式会社

右代表者代表取締役 和田毅

右代理人弁護士 平栗勲

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